業界紙の歪んだ対応
建築基準法違反と報道の変質
2009年7月、クリーニング業界で初めて建築基準法違反が発覚して以来、業界紙はこの問題を継続的に報道してきた。しかし、時間の経過とともにその論調は徐々に歪んでいった。
2009年末、別の一社が摘発されると、ある業界紙は「問題と不安、業界全体に」と見出しを打ち、国土交通省が全クリーニング所を調査対象にする方針を報じた。「業界全体に」という表現は、まるで違法業者が業界の主流であるかのような印象を与える、違反者目線の言い回しである。行政を欺いて出店したような業者が読者層の中心なのだろう。
また、同時期に大手新聞社が火災を起こしたリネンサプライ工場を建築基準法問題と関連づけて報じたことがあった。リネンサプライは水洗い主体であり、この関連づけは誤りであったが、業界紙はこの「誤報」に飛びつき、初期の違反報道を行った記者の実名を挙げて批判した。これはまるで「よくもバラしたな」と言わんばかりの子供じみた反応であり、本質である違法行為の問題をすり替えている。
さらに、最初に違反を報道された業者の経営者が書いた(あるいは書かせた)愚痴のような文章を、業界紙二紙が繰り返し掲載した。違法行為を指摘された当事者の言葉を繰り返し取り上げること自体、業界紙としての倫理が問われる行為である。
業界紙と「タニマチ」的関係
建築基準法違反が表面化した後、ある業界紙の記者が頻繁に私に接触してきた。業界の会合では隣に座り、地方の見学会では同室になるなど、明らかに何かを探っている様子だった。おそらく違反業者の依頼を受けて情報収集をしていたのだろう。
しかし、より問題なのは、そうした依頼に応じる記者側の姿勢である。読売新聞や朝日新聞にブラック企業と報じられるような業者を、業界紙では「優良企業」として繰り返し持ち上げる。これは金銭的支援、いわば「タニマチ」的関係によるものである。
2002年には、ある大手業者が週刊誌に問題を追及された際、古株の業界紙編集長が露骨にその業者を擁護した。こうした傾向は一部個人の問題ではなく、業界全体に蔓延している体質といえる。
東日本大震災の際には、原状回復の対応で多忙な中、同記者が何度もしつこく電話をかけてきた。「状況はどうか」「被害はどうか」と立て続けに聞かれ、ついには「いい加減にしろ」と怒鳴った。その後は表立っての接触はなくなったが、展示会などでは今でもこそこそと様子を伺ってくる。
歪んだ報道とその末路
その後もこの老記者による嫌がらせは続いた。業界団体のキャンペーンの際には、当選者の写真に写る私の部分だけを意図的にカットしたり、講演会で私だけを記事から除外したりと、露骨な偏向報道が続いた。明らかに誰かの指示を受けていたようである。
しかしこの記者も、2023年に静かに引退した。かつてのタニマチである大手企業も、社長交代を機に彼を切り捨てたようだ。所詮は金で繋がった関係にすぎず、最期はブラック企業の手先として消えていった。悲しい晩年である。
一般社会との乖離
建築基準法違反の問題を境に、クリーニング業界は一般社会との接点を絶った。それまでは一般紙に業界が取り上げられると、業界紙も反応していたが、2009年12月以降は沈黙を貫くようになった。以後の業界紙は、都合のいい情報だけを掲載する、中国やロシアの国営報道のような存在となった。
2012年、クリーニング業界では環境に優しいとされた「ソルカンドライ」が環境団体に批判され、国会でも議論された。しかし業界紙はこれを完全に黙殺した。
2014年、私たちがNPO法人クリーニング・カスタマーズサポートを立ち上げ、読売新聞などが全国紙で取り上げたが、業界内では無視された。それどころか、事情を全く知らない零細業者たちが「オレの知り合いの業者はいい人ばかりだから、批判するな」などと幼稚な理屈で反発した。
2017年、実際には保管などせず、放置クリーニング状態である「保管クリーニング」について、朝日新聞が夕刊1面で大きく取り上げたことがあるが、この問題を業界では全く取り上げず、まるでなかったことのようにした。このインチキな保管クリーニングはあまりにも多くの業者が手を染めており、業界紙は彼らを敵に回したくなかったのだろう。
2018年、大ヒットした映画『万引き家族』で描かれたクリーニング業者の姿は、あまりに哀れなものであった。業界を貶めているようにも取れた。そういう状況に当方が反応したことをデイリー新潮が記事にした。業界紙はその件について一紙が軽く反応したのみで、「クリーニング師という立派な国家資格があるのに」と的外れな擁護を掲載した(あのデタラメなクリーニング師試験が立派な国家資格とはお笑いぐさだ)。おそらく東京の生活衛生同業組合あたりの言い分をそのまま載せただけであろう。
このように、業界紙は法令違反だらけの業界の実態を伏せ、都合の良い幻想だけを流し続けている。自らの保身と利益のため、一般社会との接点を断ち切ったのだ。
他業界も同様の構図
このような実情を他業界の関係者に話すと、「どこも同じようなもの」と返された。業界紙の読者は限られており、独自の論調では成り立たない。結果、業界内の多数派、すなわち違反者の側に迎合するしかない。そうしなければ生き残れない構造が、どの業界にも共通して存在しているようだ。
2017年の朝日新聞記事。保管クリーニングの実態を暴いている。