新刊「日本映画の時代」

新刊「日本映画の時代」

 

 岩波書店から岩波現代文庫として9月18日に発売された「日本映画の時代」著・廣澤榮氏は、戦時中から戦後にかけての東宝における廣澤氏の映画活動が描かれている作品である。

 まず、戦時下における抑制された撮影現場を克明に記し、「ハワイ・マレー沖海戦」など 戦争映画の製作現場に関して、続いて1945年、戦争がまさに終了する時の撮影現場、さらに戦後になって黒澤明、成瀬巳喜男、豊田四郎など名監督に助監督 として付いた経験を著述している。この中に円谷英二に関するものがあったのでこれについて記したい。

 

フィルムを空回しした「アメリカようそろ」

 昭和20年夏、それまで「ハワイ・マレー沖海戦」、「加藤隼戦闘隊」、「雷撃隊出動」 など戦時下での戦争映画の秀作を発表してきた山本嘉次郎監督は、海岸で演習していた軍がまとめて特攻するという「アメリカようそろ」という映画の製作に 入っていた。特撮はもちろん円谷英二だが…。

 この本によると、監督の山本嘉次郎は、終戦の3日前には、この戦争が終わることを前もって知っていたという。撮影所から使いが来て、重役からの親書を渡され、それには近日中に緊急事態が生じるかも知れないから、そのときには第一に女たちを一刻も早く東京へ帰すこと、第二に、一同は何よりも生命を重んじて軽挙妄動せぬこと。第三にカメラ、資材は犠牲にしてもよいから安全な行動を取ることと言う注意書きがあったという。

 撮影はフィルムを空回しするようにとの指示があったとのことだが、この本では本編部分の描写のみで、特撮がどうなっていたかは定かではない。

 また、「アメリカようそろ」のタイトルに関しては台本の写真があり、「海軍いかづち部隊・アメリカようそろ」とあり、「アメリカようそろ」というのはむしろ副題だったようだ。

 

豊田四郎監督「白夫人の妖恋」に関して

 昭和31年、円谷英二にとって初のカラー作品となった「白夫人の妖恋」については、前年の「ゴジラの逆襲」以来、特技監督の冠が付いた円谷英二の特撮場面が見せ物になっている作品だが、この中でも本編監督とのやりとりがあった様だ。

 シナリオの中に「寝台の上に両眼から金光を吐く大白蛇がとぐろを巻いている。白鱗の吐く白光のために部屋の中は皎々と明るい。」とあり、この場面からして特撮の担当になるものだと思われたが、豊田監督は「あくまでリアルなイメージでお願いします。」と言ったため、円谷監督は「シロヘビについては俺んとこと関係ないよ。」となってしまったという。

 そこでこの場面は本編の担当となり、用意された蛇が短いのでつなぎ足し、それに白スプレーで細工して撮影したものだという。

 

 この場面は私が見た限り、やはり迫力不足で、シナリオの内容からして特撮班がやるべきものだったと思われる。

 こういった話は円谷英二氏に関しては数多くあり、後年弟子たちに常に語っていたドラマ部分への執着もわかる気がするし、やはり円谷プロダクション独立への起爆剤となっているようにも感じられる。