「さよなら」出版!

外国人研修生制度の矛盾に切り込む

自身初の小説!

 image001

題名:さよなら

著者:鈴木和幸

発行:駒草出版

発行日:2011年1月14日

価格:¥1200+税

 

小説発表のきっかけ

 この小説を書く経緯は煩雑なルートをたどる。2005年、自社内に奥さんが中国人という従業員がいて、将来は中国に渡り、中 国でクリーニング業を始めたいという希望を持っていた。当時よりクリーニング業界では外国人研修生のことが話題になっていて、研修生を受け入れる会社が増 えつつあった。この従業員のスタートはこことみて、この外国人研修生を受け入れることにしたのである。彼は中国での面接にも出かけ、後は迎え入れるばかり だった。

 ところが、その従業員が病気で退社し、予定が狂った。今更断ることも できず、会社では湖南省から来た研修生を迎えたが、迎える従業員のがんばりもあって何とか軌道に乗った。これは翌年も続き、今後も研修生受け入れは続くと 思われたが……。思わぬトラブルに巻き込まれる。話の骨子はそこから取っている。

 研修生受け入れに伴うドタバタや、日本と中国の文化の違い、従業員の 苦心など、この本の文中に出てくるのは、ほぼ現実に起こったことが多い。そして、研修生制度の建前と現実の矛盾や、ほとんどブローカーとしかいいようのな い受け入れ機関、そして入国管理局など行政のビックリするような対応など、ほとんど事実に基づいた話ばかりである。

 外国人研修生は、「日本の優れた先進技術を発展途上国の人々に伝える ボランティア」なのだという。ところが、実際にはクリーニングに限らず、どの業種でも労働力として期待されている。また、法的に残業は禁止されているが、 受け入れ側も研修生も残業を希望している。本音と建て前があまりにもハッキリしているのだ。会社が「法令遵守」の場合、大きな矛盾が生じてしまうのであ る。

 この小説の中では、主人公の会社は受け入れ機関から一方的に違反を責 任を押しつけられてしまう。受け入れ機関にうまく立ち回られたわけだが、実はこれ、自分が実際に体験した話である。受け入れ機関のあまりのあくどさに憤 り、最初はこの問題を公表しようと思ったが、クリーニング業界はみんな同じような研修生を抱えているわけだし(こういう点は建築基準法問題と全く同様)、 公表したところでほとんどメリットもないことから、いっそこの題材を小説にしてみたら面白いのでは・・・。と思ったのである。問題が起きたのは2007年頃だが、その頃は「苦渋の洗濯!?」が何度かテレビで話題になった時期でもあり、次回作としてやってみようと思い立ったのだ。

 

最初の出版社がなくなった?

 2007年秋頃から時間を見つけて書き始めた。おおよその流れは最初 に決めておいたが、架空のストーリーである恋愛部分については、書いているうちにだんだんノッてきて、文章もどんどん長くなった。青年期のほろ苦い思い出 みたいな部分は、多くの方々が経験していると思う。また主張である外国人研修生制度の問題点については、研修生受け入れの動機が「人手不足」ではなかった 当方には、その実態を客観的に見ることができたのだと感じている。

 翌2008年5月頃、ようやく初稿が完成し、出版社(苦渋の洗濯!?を出したところ)へ連絡しようと思ったが、電話しても連絡が付かない。いった いどうしたんだ、と思ったら、なんと出版社が倒産していた!これにはビックリした。苦渋の洗濯!?のデザイナーであり、当社の社名変更やロゴマークでお世 話になった会社の方が伝えてくれたのだが、唖然とさせられた。

 それでも、前にお世話になった編集者の方に連絡が付き、何とか小説に すべくいろいろアドバイスをいただいて、二項、三項ができあがっていった。しかし折からの出版不況もあり、当てにしていた出版社が存在しないという事態は どうしようもなかった。この話はお蔵入りするものだと思っていた。

 

事態は急変

 2010年秋、事態は変わる。「ニホンを洗濯する……」の件で駒草出版の方々にお世話になり、編集部を訪ねたとき、こちらで出版された書籍の中 に、小説があることがわかった。「こちらでは小説も出版されているんですか」ということで、編集長の方に「実は、前に書いたものがあるんですが、一度見て いただけないでしょうか」とお願いする。

 数日後連絡が届き、「行きましょう」となった。このときの喜びは表現のしようがない。2010年で一番嬉しいときだったと思う。

 勿論、出版されるまでには以前とはまた別な注文もあり、長すぎるので全体を4分の1くらい縮めたりする作業もあった。ともあれ今年1月、自分の小説が本になる感激を味わうことができたのは幸せだ。

 というわけで、小説誕生のスタートは悪質な人物への憤りだったのだが、発表に至る経緯の中で、多くの方々のお世話になり、出版にこぎ着けられたことは、感謝感激の至りである。自身初めての小説なので、その点でも大変嬉しく思っている。

 

やはりクリーニング業界のタブー

 全体として、クリーニング業界には珍しい小説であり、クリーニング業 界マスコミなどで取り上げてもらえるかと思ったが、現実には直前に書いた「ニホンを洗濯する クリーニング屋さんの話」以上に無視された。それは、クリー ニング業界ではほとんどタブー扱いされている研修生問題を扱っているからである。クリーニング業界の労働環境は決していいものではなく、特に東京や大阪な ど大都市では外国人に頼るようになる。首都圏のクリーニング工場など、外国人がいないところなどないのではないか。そういう点から、クリーニング業界は研 修生問題、広義でいえば労働問題には触れられたくないのだ。これも建築基準法問題同様、クリーニング業界のタブー、他の世界から見えない部分である。