大空への夢
2019年発表。円谷英二伝記としては細かいものを除くと三冊目である。
2017年、NPO活動で、労働組合の会合で講演した私に、大月書店という出版社から連絡が来た。同社は私に本の出版を持ちかけてきた。ところが、この時期は緑風出版から「クリーニング業界の裏側」を執筆している真っ最中であり、大変残念ながらこの話を断らなければならなかった。出版不況の中、本を出しませんかといわれて断るのは全く断腸の思いだった。
2018年初頭、須賀川市の中心にTETTEという建物が建ち、その5階には私たちの念願だった円谷英二ミュージアムが建設されるという。須賀川市で出身者である円谷英二氏をたたえようという活動は1980年代に始まったが、当初は行政などに理解されず、青年会議所で活動する以外にはなかった。それが急に動き出したのである。私はこのとき、みたび円谷英二伝記を書こうと考えた。大月書店に打診したところ、幸いゴーサインが出た。
前作から既に17年が過ぎていたが、この間、戦前のキネマ旬報などの記事の資料がそろっていた。また、円谷氏が関わったゴジラ以前の映画なども多数見ていた。前回より情報量が大幅に増えている。円谷英二の人生全般について記す場合、ゴジラ以前が非常に重要である。この辺を前作より充実させられるだろう。
円谷英二は須賀川市の出身、郷土の英雄をたたえようという趣旨であれば、書籍もそれなりのものでなければならない。やたらマニアックだったり、変に怪獣や宇宙人に固執したり、技術的な分野に偏向するのはあまり望ましくない、人間・円谷英二をどのように描くかに集中し、精神的な変遷を中心とした流れにした。
しかし、17年前とは状況が違っていた。好きなものをいくらでも長く書くことはできなかった。前作よりページ数は減り、コンパクトにしたため、いろいろ削るところも多かった。それから、出版社が大月書店なので、戦後の自衛隊問題なども入れた(怪獣映画は自衛隊をかっこよく見せているので、自衛隊を肯定しているなどという意見も当時はあった。その辺を考え、自衛隊という呼称を使用せず、防衛隊などという曖昧な表現にする作品もあった)が、それは考えすぎだった。
ゴジラ以降の時代は詳しい人が山ほどいるが、円谷氏の人生の大半はそれ以前である。どのような出来事や変遷を経てこの人はこんな映画人生を送ったのか、その辺がわかるように書いていった。
本が完成する頃、私は須賀川商工会議所副会頭に推挙された。この本の発表の場はついに完成したTETTEのこけら落としとなった。
今日図書館を兼ねたTETTEには特撮や怪獣に関する書籍が山のように置いてある。こんな図書館は他にないからこれは貴重だ。しかし、画集とかはともかく、文字が普通に並ぶ書籍の大半はどこかの誰かが書いた自費出版の本である。ゴジラなどに関する自分の主義主張をただ書いたのでは自費出版になるのは当然だが、私の場合、今まで一度も自費出版になったことはない。ともあれ、相応の負担を強いられながらも自分の主張を書にする人々の情熱には敬意を表したい。