建築基準法問題顛末記10 汗抜きクリーニングの不思議

汗抜きクリーニングの不思議

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業界に定着した汗抜きクリーニング

 たいていのクリーニング店では「汗抜きクリーニング」をメニューに入れている。汗抜きクリーニングとは、石油系溶剤の中に専用の洗剤(主に水分)を入れ、ドライクリーニングでは取れない衣料品に付いた汗の成分を落とすことである。これは、石油系溶剤を利用したドライクリーニングの洗剤しか販売されておらず、ソルカンドライなどフッ素系溶剤には専用洗剤は存在しない。実際に実験した人がいるが、衣料品に水滴の後がついて、かえってシミになるという。

 「汗抜き」とはいっても、水洗いと比較すると効果はかなり落ちる。それでも一定の効果はあるようだ。2002年、「100円クリーニング」を謳った業者が客に「100円では汚れが落ちない」とことごとく200円の汗抜きコースを勧めていたが、この業者は内部告発され、当時あった週刊誌、ヨミウリウィークリーに告発された。業者はヨミウリウィークリーを告訴し、裁判はなんと最高裁まで行ったものの、おおむねヨミウリの勝ちだったが、汗抜きクリーニングに関しては実験の末「一定の効果あり」と認められた。

 

ソルカンドライ工場で汗抜き?

 2009年にクリーニング業界で建築基準法問題が発生し、住宅地や商業地で石油系溶剤が使用できなくなると、大手業者達は石油系溶剤の使用をやめ、ソルカンドライと呼ばれるフッ素系溶剤に換えた。溶剤だけ交換すればいいわけではなく、機械もそれ専用のものにした。零細な業者などは開き直って違法操業を続けているところが多いが、大手はスーパーなど取引先があるので違法操業はやりにくかった。

 ところが、摘発されてソルカンドライにした会社の工場でも、従来から客に勧めている汗抜きクリーニングを行っているところがある。その会社の工場にいくつか電話をして汗抜きクリーニングをやってもらえるかと聞くと、事務員らしき人たちは「はい、できますよ」と答える。これは不思議だ。

 どこを探しても、「ソルカンドライの汗抜き洗剤」など存在しない。そんなおかしなことがあるわけではない。

 

汗抜きの謎解き

 私はこれを、この会社は小さな石油系ドライ洗濯機をこっそり使用して、汗抜きクリーニングを行っているのだと考えた。それしか方法がないからである。合法な工場に持って行って洗うことも考えられるが、そんな手間はかけたくないのだろう。

 そんなことをしていたら、知り合いの同業者から「石油系溶剤を運ぶローリー社がソルカンの工場に入っていき、溶剤を入れている場面を見た」との報告が入った。やっぱりそうか!私は新聞記者に報告して、取材してもらえることになった。

 しかし、そうではなかった。石油系溶剤は撥水加工などの加工剤を割るために少量使用するものだとのことだった。確かに撥水加工などは石油系溶剤で割って使用するものである。

それでは石油系溶剤で洗っていることにはならず、そのくらいなら問題ないだろう。国土交通省にも聞いたが、やはり「その程度では動けない」とのことだった。

 では、本当はどうなのか?しばらく過ぎて、今度は地元紙の新聞記者がこの謎に挑んだ。すると、とんでもない話が返ってきた。

 汗抜きクリーニングで預かった品は、「ソルカンドライ用の洗剤を倍に使用して洗っている」とのことだった。

 洗剤を倍?そこには科学的根拠も何もない。ただの雰囲気でやっているのか。この業者は加工の効果など何も考えず、効果があろうとなかろうと、安売りの価格を補う目的で効果のない加工を勧めているのだ。

 ソルカンドライ用の洗剤を販売している会社にも聞いてみた(洗剤の量を倍にすると汗抜きの効果が出るのかということ)が、洗剤の使用方法は各社の判断に任せると曖昧な回答が返ってきただけだった。

 

クリーニング業界に性善説は通用しない

 その数年後、この会社の労働組合が立ち上がり、受付店員として勤務するその組合員に話を聞いたことがある。この方は建築基準法問題の起こった2009年にも同社に在籍しており、その際には会社の会議で、「ドライクリーニングの方法が変わるから、今後、汗抜きクリーニングは行わない」と聞いたという。しかし、その後も汗抜きクリーニングは残り、会社は加工を取れ、取れと指導したという。

 最初、私は汗抜きクリーニングは石油系溶剤でしか行えないので、こっそり石油系ドライクリーニング機があるのだと推測した。それは甘かった。彼らはそんなことはどうでもいいのだ。効果があろうとなかろうと、売上になればいいのだ。クリーニング業者のやることを性善説で考えてはいけない。常に悪い方で考えないといけない。

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