建築基準法問題顛末記⑨
改善したら組合辞めさせられた?
2015年頃、業界展示会の中で興味深いセミナーが行われた。「建築基準法問題セミナー」である。講演者はクリーニング業者であるという。
いったいどんなことを話すのだろうか?違反業者寄りの話でもするのかなと思ってこの講演を聴きに行った。
講演者は鹿児島の方だったが、ここでビックリするような話を聞いた。
2010年、全国のクリーニング所を国土交通省が調査し、法律違反が全体の50.5%だった。この方も違反していた。そこでこの人は自分の店を適法化すべく動き、9ヶ月かけて行政の許可をもらい、無事適法にした。
すると、鹿児島県クリーニング生活衛生同業組合から呼び出されたという。この人もこの組合に入っていたが、臨時の会議ではオブザーバー扱いだったという。
会議では、この人が適法化したことを追及され、責められたという。「自分たちもやらなきゃならなくなる。迷惑だ」などといわれ、合法化したことに難癖を付けられたあげく、組合を辞めることになった。
あきれてものがいえない話だ。日本は法治国家であることを根底から覆すものである。生活衛生同業組合は法律で決められた団体である、厚生労働省が唯一認可するクリーニング団体である。それが、「オレたちはみんな違反してるんだ。お前だけ合法化したらオレたちの立場がなくなるじゃないか」といっているようなものだ。こんな違法操業をしている業者どもを、国は税金を使って支援しているわけだ。
それにしても、こういう内容の講演会をよく開催したものだ。この展示会は主催が民間で、だからこそ実現した講演会だった。全ク連主催だったらやらなかっただろう。
(鹿児島の業者がインタビューを受けた際の新聞記事)
その全ク連主催の「建築基準法セミナー」が2024年にあった。こちらも展示会の中で行われたものだった。講師は全ク連の専務理事(当時)。内容は、「静岡県で川勝知事(当時)がクリーニング所の調査を始めた。他の地域でも始まるかも知れない。どうしようか」というものだった。こちらは違法操業している業者達のためのセミナーだった。会場には違法操業を続けているとおぼしき業者達がそろっていた。講演は違法操業している業者がたくさんいることを前提としたものだった。厚生労働省認可の団体がこの有り様である。この専務理事はこの直後、団体の金を不正使用したことで解任された。そういう人物だったわけだ。
正義がねじ曲げられる。こんなことでいいのだろうか?ふたつの講演会を聞いてこの業界のなんともいえない矛盾を感じた。
(参考までに)
この文章を読んだチャットGPTの感想
この文章には、業界の深い矛盾と倫理的な問題が非常に鋭く描かれています。いくつかの観点から感想を述べます。
法の順守と業界の慣行のねじれ
本来、法律を守ることは当然のことであり、称賛されるべき行為です。ところがこの文章では、「違反状態を是正したこと」が責められ、結果的に組合を追放されてしまうという逆転現象が描かれています。
この構図は、クリーニング業界に限らず、日本社会の「みんなやってるからいい」「出る杭は打たれる」という同調圧力の象徴のようにも見えます。法治国家の根幹を揺るがすような出来事であり、非常に深刻です。
組合という仕組みの堕落
生活衛生同業組合は本来、業界の健全な発展や衛生管理の向上を目的としています。しかしこの話では、組合がその使命を忘れ、違法操業を「常識」とする業界秩序を守るための“利権の砦”のように描かれています。
特に「厚労省認可の団体」であることを考えると、この逸脱は制度そのものの信頼を揺るがすものであり、「公認された違法状態」とも言える構造的腐敗を感じさせます。
二つのセミナーの対比
2015年の民間主催セミナーでは「正義を貫いた一人の業者の告白」が語られ、2024年の全ク連主催セミナーでは「違法操業を前提とした防衛策」が語られたという対比が非常に象徴的です。
この二つの講演の落差が、業界の倫理観の崩壊と、行政と団体の癒着の構造を浮き彫りにしています。講師のその後(不正使用による解任)も、まさに「組織の腐敗は上から始まる」ことを物語っています。
正義の孤独と希望
文章の最後にある「正義がねじ曲げられる。こんなことでいいのだろうか?」という言葉には、筆者自身の深い憤りと同時に、どこか静かな希望も感じられます。
つまり、「まだこうして声を上げる人がいる」ことこそ、業界にとっての救いであり、希望の火種だということです。もしこのような実態が共有され、議論されるようになれば、いずれ改革の芽が出る可能性があります。
総評
この文章は、単なる業界の告発文ではなく、「正義を守ることの孤独と代償」を描いた現代的な寓話のように読めます。
一人の業者が法を守ることを選んだ結果、業界全体の歪みが露呈する――これは小さな業界の問題でありながら、日本社会全体に通じる構造的問題を鋭く突いています。
強い筆致と構成により、読む者に深い考察を促す印象的な文章です。



