初のソルカンドライ拒否宣言!? 福島県組合総会

初の脱ソルカン宣言!?

福島県クリーニング組合の決意

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総会風景

 

毎年行われる組合総会

 2013年5月25日、福島市の飯坂温泉・ホテル聚楽にて福島県クリーニング生活衛生同業組合(組合)の総会が行われた。組合総会は毎年一度、今頃の時期に行われる。

 改めて説明すると、明治時代にドライクリーニングが日本に伝来し、昭和32年に当時の 厚生省が働きかけ、環境衛生事業に関わる12の事業に組合の結成を呼びかけた。その中にクリーニングも入っていて、先駆者達が協力して各都道府県に組合が 立ち上げられ、それを中央の全ク連(全国クリーニング生活衛生同業組合連合会)が統括するという形が形成された。

 しかし、昭和40年頃からクリーニング業界に産業革命が起こり、優れた生産性を持つ洗 濯機や仕上げ機が登場して大手業者が登場すると、職人的風情を持つ既存の業者達がこれに反発、業界は個人業者(主に組合)対大手業者という構図となった。 大手業者はその後シェアを伸ばし、逆に個人業者は高齢化もあって苦しくなるも、厚生労働省はずっと組合を支援、シェアの上では少数派を行政が公認する矛盾 した状況が現在も続いている。この日の組合総会は、その個人業者が主たるメンバーとなっている。

 私は自社が93年の歴史を持つ古い会社であり、先々代は組合結成に尽力したいきさつも あり、今でも組合に入っている。先代のときには徐々に大きくなる私の会社に対し、組合を辞めろと何度もいわれたという(大手業者はみんなそういうことをさ れたという)が、今ではそんな意地悪な人もいないし、なんといっても厚生労働省認可なので影響力もあり、最近ではここにも結構理解者が出てきているので、 毎年この総会には参加している。10数年前から須賀川方部長にもなっている。

 偏狭な縄張り意識から、「客を取られた」として大手業者に圧力をかけてくることもあった組合員だが、基本的にはちゃんとした仕事をやっているし、近年の一部の大手業者のように、あきらかに反社会的な悪いこと、法律違反的な商法を繰り広げる 業者は見当たらない。みんな真面目な人達なのである。近年は後継者不足や職人的な考え方(先輩を敬う)のため高齢化が著しいが、それでも熱心な人達が多い。仕事に対する真摯な姿勢は評価するべきであると思える。

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会長が病気不在のため、代わって挨拶する副会長

 

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表彰式が終わり、退席する行政の担当者。いつも30分程度しか出番はない。

 

全ク連のぜいたくを追究

 総会は約70名の参加によって始まった。今回は理事長が病気のため欠席ということで、副理事長が挨拶するということになった。最初は感謝状の贈呈などがあり、それが終わると行政から招かれた人々は一斉に帰った。

 ここからが会議の本番である。いつもこの会を仕切るのは女性の事務長。予算の内容などを読み上げ、上程している。予算が読み上げられ、質問はないかということになり、ここで私が手を挙げた。私の発言はこのようなものだった。

「これは昨年も申し上げたことだが、当組合から上部組織である全ク連への上納金の額が昔から変わらない(会費総額の三分の一近く)のは問題である。クリーニング需要は平成4年をピークとして三分の一に縮小している。そういう中で、上層部(全ク連)が相変わらず最高級ホテルであるホテルオークラなどで会合を開くのは時代錯誤も甚だしい。他の催しも、いつも最高級クラスのホテルばかりだ。これでは年貢米を取り立てる悪徳大名の様ではないか。これだけ高額な金額を上納している以上、その使い道について各組合に報告する必要がある。どのように使用したのか、その報告書を全ク連に提出してもらいたい」

 これに対し事務長は、「使い道を質問致します」と答えた。

 一般にはクリーニング需要が大幅に激減しているのにも関わらず、全ク連への上納金はほとんど変わっていない。また、組合員は大半が個人業者であり、組合費も負担になっている人も多い。なのに上層部では相も変わらず贅沢しているのでは、革命前夜のフランスみたいである。こういう点を改革するのが本来の総会の目的である。

 この日の質問は二つだけだったが、いずれも私だった。他の人は質問がない。高齢者が多いのでいまいち活気がないのは残念である。

 

ソルカンドライ(HFC365mfc)問題

 さて、現在の日本クリーニング業界では、2009年に起こった建築基準法問題により、クリーニング業者達が住宅地、商業地で慢性的に石油系溶剤が使用されていたことが発覚した。法的に は改善しないと営業できないので、クリーニング業界で「ソルカンドライ」と呼ばれる非引火性の溶剤に洗濯機ごと変更(ドライクリーニング溶剤は溶剤ごとに洗濯機が違う)する業者が相次いでいる。

 しかし、このソルカンドライの正体は代替フロンであるHFC365mfc。温室効果ガスである。これを使用するクリーニング業者が急増しているのは、紛れもなく地球環境に悪影響を与える。こういうものを、一部業者は「環境にやさしい」と虚偽宣伝して顧客に勧めている。さらに、組合の上部団体であ る全ク連は減税措置まで行って普及を推進している。

 このようなことから、環境団体は地球温暖化阻止の観点から声明文を発信、クリーニング業者のソルカンドライ使用急増へ異議を唱えている。声明文はソルカンドライ使用業者から専用洗濯機使用業者、業界団体、そして三つある業界紙まで幅広く配信されている。

 ところが、クリーニング業界はこれを全く無視、何事も起こってないように振る舞ってい る。業界紙は何一つこの問題に触れていない。環境団体が問題視していることを、業界をあげ、結束して業界内に情報が流れないようにしているのである。業界 全体でまずいことを隠蔽するのでは、まるで共同謀議である。

 これは、建築基準法問題のときにも見られた現象である。業界全体で違法行為を隠そうとしたのである。明らかに法律に違反する行為を業界全体で隠蔽しようとするのは信じがたい背信行為である。大新聞に叩かれ、業界問題が白日の下にさらされた 後も、業界内から全く反省の言葉一つなかったことについては、クリーニング業界は反社会的な組織なのかと疑わしくなるくらいだ。

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(福島県組合が組合員に配布した文章)

 

福島のみソルカンドライに異議

 しかし、この福島県組合だけは、毎月発行される「福島県情報」において、クリーニング 業界のソルカンドライ問題を取り上げた週刊金曜日の記事を引用し、「環境にやさしいはずが温室効果ガス」として、クリーニング業者がソルカンドライを導入 することに警鐘を鳴らしている。文面はまんま週刊金曜日記事のコピーなのだが、全国どこでもソルカンドライ批判などないのに、唯一福島県の組合だけがソル カン批判を堂々と発表した。これだけでも驚くべき快挙である。

 実際、クリーニング業者がソルカンドライを導入しても、代替フロンの規制はもう始まっており、数年後には使用できなくなる可能性が高い。また、クリーニング業者においても「あの業者は温室効果ガスで洗っている」というのは顧客へのイメージ として良くない。その上、ソルカンドライは値段が高い、洗浄力がない、故障しやすいなど、問題が多い(ソルカンドライには他の溶剤と混ぜて使用する独自の方法を取るやり方もあり、それは一部で評価を得ているのだが、ここではそれは割愛する)。

 

私の発言

 私はまた手を挙げて発言した。「福島県組合は大変な快挙を成し遂げた。それは、ソルカンドライに関して、その正体が温室効果ガスであることを組合員に示したことである。ソルカンドライを使用することは環境に悪く、規制がかかれば使用できな くなるというのに、全ク連は厚生労働省に働きかけ、税制優遇措置までしている。それを全国で福島県だけがちゃんとした情報を組合員に与えている。

 クリーニング業者がソルカンドライを使用することは、私たちにも地球環境にも望ましくない。ここは福島県からソルカンドライをやめることを発信し、全国に広めようではありませんか!」

 こう言い終わると、会場からはほぼ全員の拍手が起こった。ある意味私の主張は通り、この会に承認されたのだとも思う。

 ただし、会場の組合員の大部分はかなり高齢者であり、質問したのが私一人であったことでもわかるとおり、活発な会議とは言い難かった。ソルカンドライ自体、知らないという人もいたと思うし、会場が飯坂温泉であったこともあり、「早く終わって、風呂に入ろうぜ」みたいなムードもあって、会を早く終わらせたかったのかも知れない。これから本当にソルカンドライに反対していくかどうかは未知数で ある。

 それでも、帰り際に組合に40年間君臨する女性事務長がいうのには、「全国会議の中で、ソルカンドライに反対したのは福島県だけだったんです」ということで、組合として動いてもらっていたことはわかった。建築基準法に違反しているので、 燃えない溶剤ならいいと安直にソルカンドライに手を伸ばすことを注意しているのは福島県だけなのだ。女性事務長もなかなか骨のある人で、この会を昔から支えている頼もしい存在でもある。

 

福島県はクリーニング先進県

 日本のクリーニング業界で唯一、ソルカンドライに反対した福島県。ソルカンドライは現 行法規で違反というわけではないのだが、やはり環境問題を考えれば濫用は問題である。特に、日本の場合には建築基準法問題が起こり、その代替として全ク連までもが推奨している特殊な事情がある。

その建築基準法問題にしても、あちこちの行政に虚偽申請して違法行為を繰り返してきた違法業者が福島県に進出してきたとき、福島県ではその違法性を見抜き、摘発した経緯がある。そういう業者は、今またソルカンドライを「環境にやさしい」などと虚偽宣伝し、自社ばかりか他社へもセミナーを開いて広げようとしている。法律違反から環境破壊へ・・・。悪い奴は考えることが違う。ワルはとことんワルだ。

しかし、それはこの福島県では許されない。他県で見逃されてきた不正行為を暴き、そしてまた温室効果ガスを「環境にやさしい」などとす る業者の行為を阻止することで、福島県こそ、「クリーニング先進県」であると思えるのだ。業界内からこの問題に関し、中央(全ク連)に異議を唱えるところ はなかったが、福島県がバリアフリー(年齢に関係なく)、ジェンダーフリー(男女の性別に関係なく)の状況下、新しい方向性を目指したのは素晴らしいと思った。