事業仕分けは当然の結果である

事業仕分けは当然の結果である

 5月20日、五反田TOCビルで行政刷新会議ワーキンググループの事業仕分け第二弾が行われ、「クリーニング師研修等事業」及び「生活衛生新興助成費等補助金」が廃止と判断された。

以前、この紙面でも「もしクリーニングに事業仕分けがあったら」という内容を載せたことがあったが、図らずもそれが実現したわけであ る。民主党政権が始めた一連の事業仕分けの中に、遂にクリーニングも含まれたわけだが、これにより、今まで知られていないことも判明した。今回は事業仕分 けに関わる話題を記載したい。

 

平成7年に登場したクリーニング師研修

 クリーニング師や、主に取次店に向けられたクリーニング従事者への3年に一回の研修は、平成7年より施行され、各都道府県ごとに行われるようになった。記録を見る限り、この様な研修は昭和の時代から全ク連によって提唱され、そのたびに全協も反対してきたが、平成7年には抗しきれず、これを受け入れることになった経緯があるようだ。全ク連は次々と増えている取次店対策として、クリーニング師の取得を義務づけることには成功せず、第二弾として考えていたのだろう。ただし、全協は研修制度に関し、罰則はないという妥協点を受け入れさせることに成功した。先人の尽力に敬意を払いたいが、研修制度の始まりは、クリーニング師ばかりでなく、取次店にも負担を強いることになり、取次店全盛の時代に陰りが生じ始めた。各地の保健所職員は取次店に現れ、罰則なしには触れず、「今度、法律が変わりました。研修は法律で決められた義務です」などと言って廻った。取次店から不平を言われ、不快な思いをしたクリーニング業者も多かったのではないだろうか?

 

大きな矛盾

 しかし、この様な研修会には大きな矛盾がある。もし、関わる人がすべて出席した場合、会場は満杯どころか全く入れない状態になる。最初から「どうせみんなは来ない」という前提に立った研修会だったのだ。研修会の内容も、地域によっては組合長の様な老人が講師になる場合もあり、シドロモドロの話に研修者が閉口するようなこともあった。研修の内容が話題になることはなく、頭に残るようなこともない。研修会そのものがほとんど意味のないものであった。

 

事業仕分けへ

 実際にはほとんど意味のないこの研修生制度が事業仕分けの対象にされたのは、ある意味当然のことだったと思う。仕分けの中には、「生活衛生費等補助金」なる、聞き慣れない補助金まで登場した。果たして「クリーニング師研修等事業」及び「生活衛生新興助成費等補助金はばっさりと切り捨てられ、廃止という厳しい決定が成された。仕分け側による、「受講率32%では制度上成り立っていない」、「研修の成果を実証するデータがない」、「独占的に研修を行っているのは問題」という廃止理由はいちいち納得ができるものである。研修制度が全く意味を成さないものであることは、クリーニング業者である我々が一番よく知っている。補助金も廃止されたが、金額として低いとしても、私たちの知 らない間にわけのわからない補助金が税金から出ていることに関しては、廃止は当選である。

 話の中で、「受講率32%」という数字に驚いた。せいぜい10%もな いと思っていたからである。これは、大手業者が罰則なしを理由にさっぱり出席しないので、言うことを聞いてくれる個人業者に呼びかけての数字らしい。ということは全ク連にとっても、自分たちを支える零細業者にも負担ばかりかけ、さらに意味のない研修制度だったようだ。

 

天下りの実態

 仕分けられるのは当然として、なぜ、このような研修制度、クリーニング業者が誰も喜ばない制度が現在まで続いていたのだろうか?それには、こんなわけがあった。

 財団法人全国生活衛生指導センターのホームページには、かなり辿り着きにくい様な体裁の中で、「情報公開」なるタブがある。これをクリックすると、この組織の概要がみられるようになっている。

 「役員名簿」のところを見ると、そこには21名の役員が名を連ね、一人を除いて残り全部が非常勤である。副会長には、全ク連理事長の名前が挙がっている。いわゆる、「天下り」である。

 「役員報酬及び役員退職手当支給規定」を見れば、彼らが70万から140万円の月収を受け取っている様な文章がある。「○○万円までの範囲内で理事長が別に定める金額」など、曖昧な表現となっているが、少なくとも相当な金額を受け取っていることがわかる。

 なるほどこれが天下りである。非常勤でほとんど何もせずに、100万円もらえるのならそれこそ夢のような話である。その上退職金ももらえるのだ。全ク連は、こんな利権を握っていたのか・・・。

 当然、これらの金は国民の血税で賄われている。私たちの税金もこんなことに使用されていると考えると、頭に血が上ってくる。

 

全ク連はどういう気持ちなのか

 業界全体の位置づけでいうと、全ク連は零細業者の集まり、つまり弱者という印象が強い。安売りの大手業者に囲まれ、必死で抵抗する良心的なクリーニング屋さんである。数年前に自民党政権のときには、どこかのクリーニング店を伊吹文明氏らにに見学させ、クリーニングの惨状を見せつけることで渋谷区に一律20万円の助成金獲得に成功している。「社会的弱者」と言われると、世間はそれに応援したくなるものである。「弱者」を演じることが、全ク連の戦略であったのだ。しかし実態は上層部だけが独占する組織であり、天下り団体の設立などを行い、税金を引き出していたのである。

 今まで何度か全ク連関連の方々にコンタクトを取り、一度は腹を割ってお話を・・・と会見を求めてきた経緯があるが、いつも断られ続けている。なぜそうなのかわからなかったが、何のことはない、やましいことばかりしているので、存在を公にしたくなかったのだろう。

 全ク連の行動については、いつもかねがね不思議に思っていた。大手業者の不正やごまかしの手法についてなんら追求していなかったからである。自分が全ク連の立場だったら、絶対そうするだろうと思っていた。1999年、小学館の雑誌「マフィン」に「一部の業者は預かり品を洗わずに返している」という仰天記事が載ったとき、対応したのは全協だけで、全ク連は全く無視している。 こういうときこそ動いて欲しかったのだが、今回の事業仕分けを見る限り、「クリーニングの秘密」を暴かれたくなかったのであり、雑誌に糾弾されているよう な大手業者と、「同じ穴の狢(むじな)」だったのである。

 

全協はモラルを確立する団体へ

 今回の事業仕分けに関わる問題については、心底失望した。全ク連もそんな団体だったのか、ということである。

 この紙面においては、クリーニング業界の矛盾、不正な業者の手抜きなどを扱うことが多くなった。この業界を外の世界から見た場合、どうしてもそういう場面が目立ってしまうからである。小学館のマフィン、ヨミウリ系の「ヨミウリ・ウィークリー」に代表されるように、マスコミに登場するときのクリーニング業者はたいてい、悪人のように扱われた。残念ながらそれが世間の目なのだ。クリーニング業者として、こんなに歯がゆいことはない。

 簡単に業界の構図を俯瞰して短い文章で表せ、となれば、「厚生労働省認可の全ク連がシェアが低いにもかかわらずトップに立っている。そこには多くの利権があり、天下りの恩恵も受けている、こんな団体がトップだから、業界はめちゃくちゃになり、そのスキを狙い、不正やごまかしをする業者が現れ、それらが発展している」・・・ということではないか。そうなると、この業界の「悪」は、すべて全ク連発である、となる。自分たちの利権のため、業界などどうでもいい、と考える上層部が、事業仕分けされるのはむしろ当然であり、遅すぎたくらいである。反対の署名運動などが行われているそうだが、「オレ達は天下りでいっぱい金をもらっている。それがもらえなくなるのはイヤだ。反対署名してくれ」とでも言うのだろうか?

 なお、今回事業仕分けされた「全国生活衛生営業指導センター」だが、 各都道府県の一等地に事務所が建ち、そこでも同様な天下り構造となっている。また、今回取り上げられたのは「クリーニング師への研修」だけで、「クリーニ ング従事者」はどうなっているのだろうか?根が深いこの問題は、まだまだ追求しなければならない。

 こうなると、業界モラルの確立を掲げた小川会長の言葉が光ってくる。全協こそ業界の理性の中心であって欲しい。社会の中で、クリーニング業、クリーニング業者が認められた存在になるべく、全協は進むべきである。

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民主党も、このときは良かったんだが……