モスラの精神史

モスラの精神史

著者・小野俊太郎氏 講談社現代新書

 

 な、何なんだこの本は?

 

 本書は昭和36年公開の映画「モスラ」について詳しく書かれた「モスラ」という作品の研究本という印象がある。「モスラ」のストーリーなども紹介しながら、その背景というか、周囲というか、いろいろをやたらと掘り下げていく。

 しかし、それらには一貫しておらず、散発的にモチーフを挙げてはそれについて延々と文章が連なる。女工哀史、川端康成、柳田国男、南方幻想、弱小民族、潮騒、日劇ダンシングチーム、大阪万博・・・この作品と何か関係あるの?と不思議な字句も、作者の手によって魔法?の様に連なって文章化されていく。

ずっと読んでいても結論らしいものは導き出せず、ひたすら「モスラ」の外堀を埋めるべくいろいろな材料を引き出してはそれらに何らかの解説を加えていく。確かに書いてあることはまあわかるが、作者が言いたいことは何なのか、読み終わっても全くわからない。

 こうなると、読んでいてもあまり面白くないというか、納得できない。作者は次々といろんなことを妄想する夢想家なのか?大変失礼な言い方をすれば、「モスラ」という題材について、一冊の本にするために無理矢理いろいろな内容を押し込めた感じだ。やはり書物というものは、何かしら一貫した性格が欲しいと思う。「モスラ」について、いろいろこじつけて無理矢理書いた本、って感じだ。

 

 さて、円谷英二に関しては、やはり特技監督であるから文中に何度か登場するものの、作者の方の興味はないらしく、著述は少ない。それよりも作者の他の部分の幻想?が次々と広がっていく。

 「真珠湾攻撃などを再現したハワイ・マレー沖海戦で特技監督を務めた円谷英二が、横田基地を破壊したとされる場面などを撮影したときどんな気持ちだったかは知るよしもない」・・・そうかなあ?「ハワイ・マレー沖海戦」では特技監督というクレジットではなかったよ、などという細かいことはどうでもいいけれど、この後にも続く文面を見る限り、「モスラ」とか、本文の中心たる主張への関連性は薄い。

 

 ただ、怪獣・特撮関連に関しては、本書のように作者の限りない妄想が次々と広がっていく、一貫性のないタイプの書物をたまに見かけることはある。現在のように出版不況といわれる時代はとても出せないが、1980年代、1990年代にはそういった本が出ることは少なくなかった。幼い頃に怪獣映画を見て影響を受けた人は、妄想が広がっていくタイプが多いのかも知れない。

 私は、この本を執筆した作者よりも、この本を出版して世に誕生させた出版社の方に拍手を送りたい。