クリーニング業界のコンデンサー火災

クリーニング店のコンデンサ火災

あなたの工場は大丈夫か?

 

 クリーニング業界には、家族だけで営業する零細業者もたくさん存在す る。そういう人たちはたいてい昭和40年以前から、姿を変えずに今日も営業している。ある意味たくましくもあり、応援したくもなるが、彼らは高齢化し、別 の問題も発生している。今回はそういうこの業界独特の問題を取り上げたい。

 

 9月15日、大田区でかなり大規模なクリーニング火災があった。大き な音が聞こえ、地響きがあったというから、石油系ドライ機に引火したのではないかと思う。フジテレビもこの火災を夕方のニュースで報じている。建築基準法 問題を論じているこの時期の火災ということで、眉をひそめた人も多かったことだろう。業者は大手だし、従業員も重傷だというので、今後どのようになってい くか注目される。

 この火災事故から二ヶ月ほど前の7月4日、やはり同じ大田区でクリーニング店の火災が発生している。

クリーニング店火災、女性2人死亡 東京・大田区
2010年7月4日7時24分
  4日午前1時45分ごろ、東京都大田区西六郷3丁目のクリーニング店経営安島好男さん(71)方から出火、木造2階建ての店舗兼住宅約105平方メートル のうち、約70平方メートルが焼けた。消防隊員が女性2人を救出して病院に搬送したが、煙を吸っており、間もなく死亡が確認された。警視庁は一酸化炭素中 毒の可能性があるとみて調べている。
 蒲田署によると、亡くなったのは安島さんの妻正枝さん(72)と長女澄子さん(41)。いずれも2階の部屋で寝ていたという

 この様にこちらは個人店の様だが、死者二名が出る痛ましい事故となった。(ここでは石油系ドライ機への引火はなかったようだ)

後になり、この事故の原因がわかった。この店の作業場で使用しているコンデンサが老朽化していて、そこから出火したのである。組合ではすぐに注意喚起の文章を作成して組合員に廻し、この様な事故がまた起こらないように努めている。そういう対応には感心させられる。

しかし、そうやって届いた文面を見て驚いた。それにはこの様に書かれてあった。

「長年ご使用の低圧進相コンデンサは焼損の危険性があります!・・・昭和50年(1975年)以前に製造された低圧進相コンデンサは、既に寿命がきており、場合によっては二次災害に至る危険性がありますので、早急にお取り外し、お取り替えをお願いします。」

 この事故を起こしたコンデンサというのは、昭和50年、すなわち今から35年以上前に設置されたものであるというのである。

 昭和50年という時代を振り返ってみたい。政界ではロッキード事件が 引き金となって退陣した田中角栄首相に代わり、三木武夫がその座に就いていた。芸能界では翌年にピンクレディーがデビュー、クリーニング業界は取次店全盛 でどんどん発展していた。ちなみに当方では自宅隣の工場を拡張しようと役所へ申請したところ、3年前に決定した用途地域によって拡張が認められず、翌年別 な場所(現在の本社)へ移転している(当時私は中学生でずっと後から聞かされた)。

 要するに、かなり大昔のことだということだ。そういうコンデンサが現 在も使用されていたのが火災の原因であり、しかも、そういう業者が他にもいるらしいということがわかった。これだけ大昔だと、安全性に関する考えが現在の ように発展しておらず、このコンデンサも保安装置が内蔵されていなかった。時代錯誤というよりも、過去の亡霊が蘇ったような話である。

 

 これは意外な盲点であったかも知れない。私たちは工場を建設する際、 必ず電設業者に中の電気設備を依頼する。コンデンサは彼らの担当であり、工場開設時に備え付けられる。低圧進相コンデンサの更新推奨時期は10年とされて いる。だが、何事もなければそれはそのまま使用されていくだろう。電気設備については、普段使用している洗濯機や乾燥機のように気を遣っていないかも知れ ない。特に、この場合は1975年より前の機種を危惧している。大手といえど、それ以前よりの工場は注意が必要だろう。

 ただ、仮に十分な注意がなかったとしても、ある程度の規模を持つクリーニング店なら、35年前の機具がそのまま放置されているとは考えにくい。この様な問題は、家族で運営する零細企業に関わる問題であると思われる。

 

 今年の夏、私は買い物で御徒町へ行き、交差点に立っていたところ、私の前をクリーニング用の幌を後ろに付けたバイクが悠然と横切っていった。高齢の同業者がバイクを運転していた。

 私は腰を抜かしてしまった。これは、大昔にクリーニング業者が配送用に使用していたバイクである。私の記憶では、45年前に自社からは姿を消している。現代の世にこんなものを見るとは(しかも現役!)思わなかった。

 クリーニングという業種は展開する街の規模に左右される。東京など大 都市は人口が非常に多く、人口密度も高いので、零細業者も淘汰されず、生き残っていくことが出来る。それはクリーニングに限ったことではなく、小規模な居 酒屋、銭湯、映画館などは、小さい街ではやっていけない商売になった。「逆ガラパゴス化」といったらいいだろうか?ともかくも零細業者が半世紀以上も姿を 変えず、生き残っているのは懐かしく、三丁目の夕日みたいで嬉しい。

 確かに東京の町並みを歩いていると、まだこんな店があるのか!と思え るような旧態依然(失礼!)のクリーニング店を時々見かけることがある。何十年も同じスタイルで商売が出来るというのはちょっとうらやましい。古い店を見 て、私のような業者はすごくノスタルジーを感じている。

 しかし、その業者達は50年以上前からそのスタイルをほとんど変えず、そのままの姿で営業している。7月に起こった火災の場合、70歳を超えた業者の運営する店だった。35年以上前のコンデンサでは、事故が起きない方がおかしかったと思う。

 クリーニング業者、特に小規模の業者については、職人型の傾向が強く、こういう人達はほとんど生涯現役で引退しない。死ぬまで現役である。いつまでもお元気なのは素晴らしいが、危険度は年齢に比例して増していく。

 私たちには縁遠い話題なのかも知れないが、私たちの業種には、半世紀 もスタイルを変えない業者がたくさんいて、しかも、使用している機器も昔のままということである。高齢になれば、管理能力や判断も衰えてくるだろう。そう いう業者が今もたくさんいて、特に都会に集中しているとすれば、今後、第二、第三の事故が起こる可能性は高い。考えようによっては、先の建築基準法問題よ りも深刻である。

 これは、早急に対策を考えるべきではないだろうか?「私たちとは関係 ない」と思われるかも知れないが、少なくとも同業者がどんどん高齢化し、危険な状態である続けるというのは放置できない。すぐに回覧板を廻した組合の対応 は良かったが、「気をつけましょう」くらいで何とかなるような年齢の人たちではない。こういうときこそ政治や行政を動かし、対策を講じるべきではないだろ うか?全ク連はどうせ動かないだろうし、一般社会は当業界の実態をわからないのだから、社会の安全性、消費者保護の立場から、誰かが進言すべきである。

 

 先日、国土交通省の調査が終わり、クリーニング業界の用途地域違反は 約50%と発表されたが、零細業者については、古くからやっているので適用不的確となり、合法となっているところも多いという。法的には合格なのだろう が、現実の火災の危険性については、はるかに高いのである。そういう業者こそ、何らかの安全対策を講じるべきである。

 それにしても、全ク連の異常なレトロ感覚は何なのだろうか?クリーニ ング師試験など、いまだに焼きアイロンが使用されているが、誰も使用しない危険なアイロンを使用すること自体、火災事故を助長しているようなものである。 自分たちを支える組合員なのだから、彼らの生活のため、安全のため、ここは安全策を講じるべきではないのか?

 もう一つ、よく零細業者を語る場合、「かわいそうだ、かわいそうだ」 という言葉が出てくる。自民党政権時代には全ク連の業者が当時の自民党幹事長に作業場を公開し、同情を煽って金をもらったそうである。零細業者を「かわい そうだ」の一言で片づけるのはあまりに単純すぎる。特に、若い世代が、「小規模なんで金くれ」はみっともない。先輩である高齢化した業者への対策を今、考 えてもらいたい。

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(クリーニング工場には古いコンデンサーがあるかも知れない)