2009クリーンライフビジョン見学記

全ク連主催によるクリーンライフビジョン展示会が今年も11月13日から15日までの三日間、大阪で行われた。

例年規模が縮小するこの展示会だが、クリーニング業者達にとっては一つのお祭りという印象で、一年に一度、大都市で行われるこのイベントを楽しみにしている人も多い。今回はわずか一会場だけと寂しかったが、それでも常連の出展者達が、各ブースで張り切っていた。

この展示会も、かつては、この4,5倍という規模で行われていた。展示会から去っていった会社の多くは、深刻な不況の中、この様な展示会に出品しても品物がそう売れるわけではなく、採算に合わないことが撤退の理由だと思われる。また、販売方法も多様化し、個別に展示会を行う会社も多い。よくいろんな業者から高いといわれるコマ代を払うメリットはもはやなくなったのかも知れ ない。

 

様々な出展者達

こういう厳しい商況の中、あえて出店を続ける義理堅い?ところも多い。特に、この展示会でしか見かけない業者というのもいくつかあり、その様な業者にとってはむしろ、ここは欠かせない場所なのだと思う。

何カ所かで、長いカウンターにクリーニングで使用する消耗品や部品をずらりと並べ、そろいのはっぴを着て一生懸命販売する資材業者がいる。シミ抜き用のササラ、アイロンのホース、アイロン代のパッド、替えのボタンなどが昔からずっと同じように売られている。明らかに昭和の風景であり、むしろそれが「全ク連の展示会」には似つかわしい雰囲気を醸し出している。これは決して皮肉を言っているのではなく、クリーニング業者によっては一年に一度、ここでしか手に入らない貴重な商品であるのかも知れない。そういうものを供給する業者が残っていることをありがたがるクリーニング業者もいるはずである。

 

ひときわ広いブースを取って勢いを見せるのが三幸社である。ここでは恒例のワイシャツ仕上げコンテストも行われている。全ク連ではこの展示会で、何十年も前からアイロン一丁でのワイシャツ手仕上げコンテストが同会場で行われているが、市場でワイシャツ仕上げ機の大きなシェアを持つこの社が、現実にはほとんど存在しない焼きアイロンによるコンテストを横目に「現実的な」コンテストを行っているのを見ると、旧態依然とした全ク連の姿勢への当てつけのようで面白い。多くの顧客がこの会社の機種によって仕上げられたワイシャツを着用し、片や、現実には存在すると思えない半世紀前の仕上げ方法が行われているのを見る限り、全ク連の幹部がこれでよく疑問を持たないものだと感心させられ る。この展示会へは全国から業者が集まるので、三幸社が一番この会を有効利用しているようにも感じられる。

 

その横では、建築基準法問題によって今や売れ筋製品になったソルカンドライを中心に販売する東京洗染が、その自慢の機種を稼働させ、客を集めている。どう考えてもここは売り時といった感じだが、昔からこの会社には穏やかで紳士的?な社員が多く、ここがチャンスとばかり派手に宣伝している様な風景には見えなかった。しかし、むしろそういう態度には感心させられる。当業界には、効果があるのかないのかわからないような品をさも素晴らしいもののようにこの展示会で発表した数々の歴史があるので、余計そう感じる。さすがは当業界マシーナリーの老舗という風情である。

 

また、その近くに出品したデジ・ジャパンは、受付レジDUKEをさらに発展させ、ドロワーの開発や、店舗ごとの入出荷チェックなどの機能を紹介していた。業界のレジはこのデジ・ジャパンと、ライトの二社でかなり大きなシェアを持った感があるが、お互いが切磋琢磨して優れた製品を開発していることには全く頭が下がる。受付機のレベルがどんどん発達していくのは、ユーザーであ る我々にとって大歓迎である。

 

さて、今回は大変異色な出店が見られた。

まず、中国から来た上海ウェイシー。今回は仕上げ機をたくさん出品し、その中には小型ボイラー内蔵の機種などもあり、なかなかユニークだ。

注目の機種は背広、ズボンのスーツを一気に仕上げるもので、小型ボイラーどころかシミ抜き機まで付いている。まさに至れり尽くせりだが、価格は非常に安く、さすがに中国製品は安いのかと驚嘆した。

何でも、日本市場に会社を定着させるため、まずは低価格で行くのだという。安売りクリーニング店の戦略のようである。営業の方はこの後に、まるで三幸社のワイシャツ仕上げ機を思わせるような機種を紹介し、ソデ、エリを伸ばす装置まで付いていた。

ここに、数年前に新しい生産方式で大きな話題をまいた日本の社長が登場し、こちらをビックリさせた。「日本市場統括本部長」の名刺をもらったが、この方の常に話題を集めるところには本当に感心させられる。

こうなると、日本の機械メーカーも新たなライバル登場かと思われるが、「(機械の)骨組みが細く、あれではすぐ故障する」、「いくら安くても、こういう機械を購入すればメンテ費だけでかえって高く付く」などと批判するメーカーもいた。

果たしてどうなのか、今後に注目したいが、日本の機種にない斬新な発想や、パクリじゃないかと口あんぐりの大胆さにおいて、この展示会では大きな話題を集めていたのは紛れもない事実である。

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さらにその横には、マルホンなる会社が見たこともない機種を並べて展示していた。

話を聞いてみようと思ったら、何とこの人達は韓国人で、言葉が通じない。すぐに日本人スタッフが登場して説明してくれた。

まずは、普通のタンブラー乾燥機に取り付け、回収なしを回収機に変えてしまうというユニークな機械。回収率は最高で80%になるという。なかなか面白い発想だ。

昨年当たり、石油価格の高騰は我々の経営を大きく脅かした。回収乾燥機は売れ筋商品であるが、いかんせん値段が高い。この様な機種を備え付けることで、回収「なし」が「あり」になるなら面白い。

ただ、これに関しても一部の識者から「回収率80%を達成するとすればかなり爆発の危険がある。はい、そうですかと信用するわけにはいかない」、「日本人が怖くてやらないことを、怖いもの知らずの外国人がやってしまった感 じ」と消極的な意見も出た、何しろ当業界は新しいものに関しては今までも登場しては消え、登場しては消えを繰り返しているので、確かに慎重な対応が必要か も知れない。

その横に、配電盤の様なものがいくつも並んでいた。よく見ると水洗機やドライ機のマイコンだった。この会社は各機械のマイコンが古くなったら取り替えるという。

これはかなり興味深い発想だ。洗濯機はマイコンがダメになると交換時期だというのが業界の常識であったからだ。それをまた再生させるというなら、機械の寿命が一気に長くなって経済的だろう。また、こちらは危険があるようにも感じられない。これはさっきのものよりも、より採用する会社があるのではないだろうか?

 

こうして見てみると、なかなかどうして、小粒ながら見応えのある展示 会だったようにも感じた。こっちも最初に見どころを聞いて行ったのが良かったのかも知れない。全ク連はいわば地主の様なものだが、多くの資材業者が、義理 堅く出展をしていたことで、この会は成り立っているとも思える。この先どうなるかはわからないが、少なくとも意欲のある業者や、クリーニングに欠かせない 資材を販売する業者などが出てきやすい環境を作ることが大切だろう。

 

全く意味を成さないセミナー

今回の展示会では、「建築基準法対策セミナー」なる講演会が会場内で行われた。それが、三日間で6回も行われるというのである。同じ内容の講演会を六回もするのは異常だ。今話題の問題だけに、それだけ熱を入れてセミナーを行うというわけだろうか?

この話題が出てから、現在まで全ク連は全く沈黙を保っていた。少なくとも厚生労働省認可の団体が何も言わない、というのは妙だが、それがいきなり沈黙を破って6回もやるというのである。私は興味津々で初日に一回だけ行われたセミナーに出席した。

 

招かれざる客

定刻は12時半だったが、私は12時頃に到着した。前では講演者達が 打ち合わせをしている。私は最前列に座り、前の方で準備をしている人物に「あなたが話すんですか?」と言ったら、「いや厚労省の方が話します」と、こちら に一瞥もなく答えられた。何だか招かれざる客のようである。

やがて定刻となり、先ほどまで準備をしていた人物の司会により、プロ レスラーのようにやたら肩幅の広い大柄な人物が登場した。この人が厚労省のお役人である。後ろを振り向けば50人店員ほどの会場は8割くらいの入りだが、後ろの座席には白いブレザーの全ク連のメンバーが揃っている。おそらく、厚労省の役人の顔を立て、出席しているのだろう。

 

配られたプリント

話に先立って、A4版のプリントが一枚だけ配られた。これはQ&A形式で、建築基準法に関する設問が述べられていた。全部で6問あった。

ところが、どうやら正解で明確なのは一番上の「今回の問題はどのよう にして発覚したのか」というものだけで、それ以降の回答は「・・・だが、こういう場合もある」、「・・・だったが、こんなこともあった」といった極めて不 明確な答えであり、結論らしいことがなく、これでは何の解決にもならない。

案の定、この方の話もこのプリントに沿った形で行われ、ほとんど同様の内容であった。印象としては、問題が建築基準法に関するものであるから、厚生労働省の役人といえども「門外漢」であり、話が全く宙を浮いているようで、少しも現実的ではない。また、全国に散らばったわずかな例外的な措置を絞り出すようにして内容に加え、少しでもクリーニング業者、とりわけ個人業者の権益保護に努めているようにも感じられる。ある意味頭が下がる努力ではあるが、いかんせん分野が違う。

 

質疑応答も・・・

最後の十分間に質疑応答の時間があった。このとき、私は質問をして、「建築基準法の制定は昭和25年だが、それでは、それ以降の営業開始はすべて違反なのか」と質問したが「いや、そういうわけではない」とか、かなり不明確な回答があり、しまいには「詳しくは国土交通省に聞いて下さい」ということだった。また、もう一人の人物も質問をしたが、それについても結局は「国土交通省に・・・」であり、これでは答えにならない。結局、全ク連の力が及ぶのは厚生労働省のみで、今回の問題はその外で起こっており、彼等が対処すべきではないのだ。日本ソバの職人にラーメンを作らせているようなもので、英語教師に数学の授業をさせているような印象である。呼ばれたお役人もいい迷惑だったのではないだろうか?

 

ポーズだけのセミナー

結局、何ら解決法を見いだせないままこのセミナーは終了した。講演をしたお役人がその道の方ではないので、当然といえば当然だが、この様に意味のないセミナーをやって、いったい誰の役に立つというのだろうか?

会場の片隅には、「建築基準法対策コーナー」なるパネルが貼られ、用途地域などについて述べられている。これについても、一つは会場で配られたプリントを大きくしたもの、もう一つは12種類の用途地域を図解したものであり、改めてここで表示しなくても誰でも調べればわかることだった。

全ク連の意図は、今回、大きな話題となっている建築基準法の問題に対し、とりあえずは対応しました、というポーズを取ることに意義があったのではないだろうか?全ク連の動きはたいていこの様なものである。組合員に有益であればいいのだが、とりあえずポーズを取って、努力していますよ、という姿勢だけを見せる。政治などではこういう動きを取る場合が多いが、それは行政の汚点であり、そのまま真似されても困る。

厚生労働省としても、結局は保健所の申請を通った工場が後になって建築事務所から摘発されたわけであり、若干の責任はあると思われる。

意味のない、ポーズだけのセミナーでは何ら意味を成さない。できれば、国土交通省のお役人にでもお願いすれば良かったのではないか?そこまでは全ク連では出来ないのだろうか?

この様に大変不満の残るセミナーだったが、もし、国土交通省の人が来て、現実を話されては困るのだろう。情けない話だが、「本当のことを話されては困る」というのが本音ではないだろうか?

この様な問題は業界に40年以上横たわっており、それを全く放置した全ク連の責任は重いと思う。