ビジネスに影響を及ぼすSNS

ビジネスに影響を及ぼすSNS

 世の中にインターネットが登場後、今までは到底考えられなかったような現象が起こっている。そしてそれは私たちのビジネスにも影響を及ぼしている。今回はそんな状況を俯瞰し、現実にどんなことが起こっているかを記載したい。

 2025年5月14日 11_10_38

奇々怪々な選挙

 ここ最近の選挙は、なにやら複雑で理解しがたい事象が数多く起こっている。昨年行われた東京都知事選では、過去最高の56人もの候補者が登場、中には当選を目的としていない候補者も多くいた。いったい何のために立候補したのか理解しがたい人々もいた。小池百合子氏と蓮舫氏の一騎打ちが予想されたが、それまで無名の石丸伸二氏が次点に上り詰めている。意外な結果に誰もが驚いた。

 続く兵庫県知事選ではパワハラ等の疑いで追求された斎藤元彦現知事の苦戦が予想されたが、なんと当選している。こちらも予想外の結果だった。「二馬力」という、選挙の新戦略が注目された。

 こういった予想外の選挙結果には、SNSが大きな役割を果たしているという。今やテレビや新聞は「オールドメディア」と呼ばれ、かつての影響力を失っており、代わって登場したのがSNSである。選挙の結果に大きな影響力を及ぼすというのであれば、見逃すわけにはいかない。

 こういった現象は身近な地域にも発生している。ある近隣の市では長年務めた市長が引退を発表、市長選が行われたが、そこにはそれまでほぼ無名の市議会議員が立候補した。この議員はかなり風変わりな公約を掲げ、もし当選すればこの市を大きく変えてしまうかも知れない。慌てた既存勢力は市会議長を擁立し、必死になって応援した。選挙結果は市会議長が勝ったが、それでもかなり追い上げられ、決して楽勝ではなかった。

 ほぼ無名の新人がSNSを利用して選挙に挑むというのはもはや定番となっている。改めてSNSの影響力の大きさに驚かされる。

 

集客に大きな影響を与えるグーグルマップ

 以前、ある地域のホテルに宿泊したとき、チェックインの際、受付担当者からQRコードの印刷された用紙をも渡され、「グーグルマップにコメントを入れて下さい」と頼まれた。それをすれば缶チューハイかハイボール缶をプレゼントするという。そんなことで酒がもらえるならありがたいので私はその通りにした。しかしそこには大きな意味があった。

 今や誰でも持っているスマホにはグーグルマップがインストールされている。現在、待ちにあるいろいろな店を訪れる客の3,4割は、グーグルマップを見て来るのだという。知らない間に、こんなものが集客の大きな武器になっていた。そしてそれらの店のコメントが多い店は、閲覧件数が大変多くなるという。これでは、絶対やるべきだろう。

 勿論、それ以前に自分の店をグーグルマップに登録していなければなんの意味もない。こういったことに乗り遅れるとまずいことになる。一つの店につき、コメントが10個ほどで変わってくるというから、かなり手軽に取り組めるようだ。そうであれば、やらない手はない。こんなにローコストで効率的な集客手段はない。

 以前は食べログなどのサイトを見てレストランを選ぶ人が多く、そのため意識的に高評価を増やす行為が流行り、それを請け負う怪しい業者も存在したが、現在ではそれらの対策も成されており、同じ人物が複数の同業者の店にコメントを付けていると、グーグルに感知され、使用できなくなるという。こちらがのんびりしている間にネットの世界は急速に発展していくようだ。

 

拡大するyou tubeの世界

 そして今、最も影響力を持つのがyou tubeである。you tubeはテレビと違って好きな時間に好きなものを自由に見ることができる。現在、若い人は自宅にテレビがないという人が当たり前になっている。あってもテレビとして使用せず、ネットにつないでyou tubeやアマゾンプライム、ネットフリックス用にしている人がほとんどだ。

 このyou tubeをうまく使ってビジネスを展開した人も多い。コインランドリー業界などは映像を頻繁にアップし、大きなビジネスにつなげている。今後の私たちの情報発信源として位置づけは大変大きい媒介であり、決して無視はできない。

 しかしながら、こういった新しい媒介にはありがちな話だが、到底事実は思えない、フェイクニュースのようなものもあって一概には信用できない。

 日本のコインランドリーは急速に増え、今や26000軒を越えるコインランドリーが全国で稼働しているが、安直にこの商売に手を出して失敗する人も多く、6割が赤字ともいわれている。そういうわけだから、you tubeで「コインランドリー 赤字」などと入れて検索すると、ガッカリした顔をした人たちがたくさん登場する。かなり失敗事例があるようで、「やめたくても投資額が大きすぎてやめられない」などかなり悲惨なものも多い。

 しかし、これをある特定のコインランドリーチェーンの名前を入れ、さらに「赤字」と入れて検索すると、そのチェーンが製作したおびただしい数の映像が出てくるばかりで、全く「赤字」が出てこない。このチェーン店は三つくらいのグループに分かれ、次々と映像を制作しているようだ。

 同じ仕事を続けているのに、こんなにたくさんの映像をアップする必要があるのだろうか?これは意図的に多くの映像を流し、自分たちに不利な情報が流れるのを避けているようにも思える。

 これと同じようなことがある。ネットで「宅配クリーニング」と検索すると、何十ページ進んでも宅配クリーニングを運営する業者のスポンサーサイトしか出てこないという状況になる。同じようなことを、おびただしい数の業者が行っている。宅配クリーニングについて客観的に知ろうとしても、同じようなことを繰り返すスポンサーサイトに行き着くだけである。まるで数の力で事実を封殺しているかのようだ。こちらは一業者ではなく、業種を挙げて自分たちを守っているようにも思える。

 このような事例を見る限り、ネットの登場によって私たちは便利になっただけではなく、むしろわかりにくくなったことなども多くなっている現実に直面する。誰かが巧妙に事実をねじ曲げているのなら困った問題だ。

 

ネット社会への備え

 ただこのような「情報操作」とも取れる行為はこれまでもなかったわけではない。宅配クリーニングが始まった頃、これら新規参入の宅配業者を褒めちぎるサイトがネット上にたくさん登場した。これらはアフィリエイトと呼ばれ、学生やアルバイトなど、クリーニングをよく利用しているとは到底思えない、業界外の人間に作らせた広告の一種だった。同じ会社をほぼ同じ内容で賞賛する新型広告はかなりうさんくさかったが、現在はこれらアフィリエイトについても問題視され、法規制も強まり、嘘くさいおかしなサイトは激減している。これには、ネット情報を見る人々の目も昔よりははるかに鍛えられたことも大きい。

 2010年頃、ソルカンドライの需要が急速に高まった時代には、クリーニング業界はこの新溶剤を「環境に優しい溶剤」とし、使用する業者はポスターを作成するなどおおっぴらに宣伝し、展示会でも業者のブースに大きな看板が張り出された。しかし、これを「ソルカンドライ」と呼ぶのはクリーニング業界だけであり、一般にはHFC365mfcと呼ばれる温室効果ガスであった。こういうクリーニング業界の動きが環境団体に伝わると、たちまち彼らは声明文を発表して社会に警鐘を鳴らし、国会でも日本共産党が取り上げ、「日本のクリーニング業界の悪い傾向」として警鐘を鳴らしている。これは温室効果ガスを環境に良いとした「悪意」というよりは、当業界に一般論としてこの溶剤をとらえる視点がなく、あまりに知識がなかったことを表面化させた残念な出来事だった。こんな大事なことを業界紙はどこも報じなかったが、近年になってソルカンドライは製造中止となった。

 コロナ前には日本の有名なキャラクターを自社の宣伝に取り入れるクリーニング業者が増え、誰もが知る有名キャラクターはそれを導入した会社を潤わせた。しかしながら新型コロナウィルスの流行が始まると、不思議なことにそれらは一気に消え去ってしまった。コロナ時代には経費節減の必要性が高まり、高いキャラクター使用料は敬遠されたのだろうが、それにしても全くなくなったのは潔いとさえ思えるほどだった。人気のあるキャラは会社のイメージを上げる効果はあるだろうが、コロナの災禍はそれとは比べものにならないほどダメージが大きかったのだろうか。

 このように過去の事例を鑑みれば、いくら巧妙に新素材を取り入れても、中身がなくて内容が伴わないもの。あるいは金を払って会社のイメージを他力本願にあげるようなものはいずれ消えゆく運命にあるようだ。最新のアイテムを取り入れればうまくいくものではなく、流行のスパンも相当短くなっている。また、ネット関連のアイテムは、一気に崩れ去るというリスクも見逃せない。新しいものは慎重に、十分な知識を得てから取り組みたい。

(この文章は業界機関誌に掲載した文章を少し編集したものです)