ウルトラマンが泣いている

円谷英明著 講談社現代新書

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 円谷英二氏の孫に当たる円谷プロ6代目社長、円谷英明氏による近年の円谷プロ興亡史。身内の問題を暴露する注目の書という体裁。

 特撮の神様、円谷英二氏は生前多くの功績を残し、その名声は海外にも響いているが、後継者達はなかなかうまくいかず、ついには会社を他に売り渡すことになった。そういう悔恨がありありと感じられる一冊である。

 英二氏の死後、長男の一氏は傑作の一つとして数えられる「帰ってきたウルトラマン」を製作し、円谷プロここにありを誇示する。しかし、英二氏の生前から続いていた経営の苦しさは改善されず、円谷プロはかなり苦しい運営を強いられる。作者は一家心中まで考えた(断定はできないが)一氏の苦悩を伝えているが、程なく両親は離婚し、 すぐに後妻として赤坂のクラブのママがやってくる。しかし、この肝心な後継者が英二氏のわずか三年後に鬼籍に入る。

 英二氏亡き後の円谷プ ロを支えたのはキャラクター製品の販売だった。ウルトラマンなど作品の放映権も同様に会社を潤わせる。しかし、それもかなり管理が悪く、ウルトラマンのデザイナーとはトラブルが起こり、ついにはタイのほとんど関連があるとは思えない人物に海外の権利を奪われる。その後もセクハラのスキャンダル、親族の争い、荒い金遣いなどで会社はどんどん追い込まれていく。生々しい現実が当事者の口から語られるのは大変興味深い。

 大変驚いたのは、平成 のウルトラマンシリーズ、ティガ、ダイナ、ガイアなども、大赤字だったということである。最初期のウルトラマンやセブンが予算を大幅に超える制作費によって赤字になったというのはよく聞く話だが、そういう反省が全く生かされていなかったことになる。ただ、この時期は円谷プロはほとんど製作にかかわらず、作 業は外注だったため、どのようにして赤字になったのだろうか?非常に興味深い。

 いろいろな問題については、これは世に知れた円谷プロだから話題になることであり、同族経営におけるトラブルとしてはよく聞く話である。ことごとく失敗する事業は本人達の責任であったとしても、中小企業の幹部などには大変参考になる内容であるかも知れない。

 ともあれ、円谷プロの人達と接し、その状況をある程度知っている人なら、出るものが出たという印象の本。ウルトラシリーズの脚本家として活躍した金城哲夫氏のルビが「かねしろてつお」になっていることが話題になっている。

 ただ、人間はその立場になってみなければわからないことも多い。英明氏は何度かお会いしたが、温厚な紳士という印象もあった。これからも論議を呼びそうな書籍であることは間違いない。